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Date: Fri, 08 Apr 2022 19:26:36 +0900


相手の言っている「完全賠償主義」が何を示すのかよく分かりませんが、
相手も、「通常生ずべき損害」(民法416条1項)の解釈が問題に
なるんだという点を争点にしていて、それが事実的な因果関係があるもの
全てではなく、そのうちの相当因果関係が認められるものに限定されるの
だということを言っています。

確かに、判例通説は、そのように解釈していますが、これに対し批判もあります。

ただ、仮に相当因果関係説に立ったとしても、相当因果関係の範囲に入るか
どうかも、また問題になって、通常、裁判では、その損害が相当因果関係の
範囲かどうかが争われます。

例えば、本件の再生医療にかかる治療費について、

① 相当因果関係にないが、相当因果関係説自体が誤りで、○○説によると、
 それも損害に入るのだ、

という主張の立て方と、

② 今や再生医療にかかる治療費も相当因果関係の範囲内とみるべきだ、

という主張の立て方が考えられます。

今までこちらは②の立て方をしています。


①は相当因果関係説に対し対抗となり得るような有力な説がなく、
交通事故以外のあらゆる損害の概念に関わってくるので、相当難しい
と言わざるを得ません。

②でも、かなり難しいことは、これまでお伝えしたとおりですが、
法律で再生医療費は含まないと書いてあるわけではありませんので、
時代が変わり、治療技術の効果や費用が変わってこれば、含まれる
可能性が皆無ではありません。
ただ、交通事故以外の過失での損害賠償の「通常生ずべき損害」の範囲
まで拡がる結果になることは、裁判所はかなり躊躇するでしょう。

これに対し、
・犯罪被害者救済として立法が今回のような故意犯について再生医療費
まで給付を認めるとか、
・交通事故の自賠責法を改正して自賠責保険の責任として再生医療費まで
給付を認めるとか、
・医療保険の内容を改正して再生医療費も健康保険診療の対象にするとか、
が実現すれば、役立たずの司法の力など借りなくても、給付が実現する
ことになります。

しかし、これには、当然、財源問題が絡み、また政治的問題となるので、
国会で多数派にどうしていくか(議員立法が圧倒的に少ない日本では、
内閣立法、つまり自民党の政策にどう採用させるか)というこれまた
難しい問題があります。

そこで、運動の一環として裁判をする、あるいは裁判をきっかけに運動を
起こしていく、という発想が出てくるわけです。

また、外圧(国際的基準)から、国会(政府)工作をするということも
考えられるわけです。

それでも必ずうまく行くわけではありませんが、起こそうとしなければ
起きないことは間違いありません。


なお、自動車保険の「無制限保険」というのは、対人・対物賠償についての
無制限保険なので、上記の損害(通説でいうと相当因果関係のある損害)
のうち、上限金額があるか、上限金額がないか、という問題です。
上記の損害の概念が変わらないと変わりません。

また、保険商品として、自分が再生医療費が必要になったときに支払うと
いう医療・損害保険は、賠償の問題とはまた別の、保険契約の問題になります。

(ただ、裁判でも認められるような損害なのに、あるいは保険契約上
支払われなければならないのに、保険会社が支払わないという運用や実態の
問題は、確かにこれまで述べたところは別の問題として存在します。それが
ご指摘の「保険金不払い事件」等の問題かと。)

Wikipediaなどで議論するのは問題ないですが、どのような問いの設定を
するのが有効か、が重要な点かと思います。

長文失礼しました。
ただ、ご質問いただいて、私も少し整理が出来ました。ありがとうございます。